大阪の東にあるので東大阪市。
東大阪市の玄関「布施」は繁華街であり下町の風情が残っています。
その「布施」を舞台に短編恋愛小説を書いてみました。
【第一話】
左を歩くあなたのために カバンは右に持つ癖がついていた。
一人になっても直らない癖。 けれど、この街では役に立つ。
「カバンは通路と反対側に」 布施は傷心の私に優しい街だ。
【第二話】
2人だけで出かけるようになり1年くらい経つかな。
そろそろ、距離も縮められそうな気がする。
けれど、年下なんて興味無いってフラれたらどうしよう。
こう見えてオレは繊細なんだ。
~キスの約束しませんか?~
商店街に新しくできた高級食パン屋の名前だ。
「これ、オレの気持ちっす」
彼女の目の前に、あのパン屋の紙袋を差し出す。
「乃上く・・・金太郎くん、ありがとう。とても嬉しい」
初めて僕の名前を呼んでくれた。その日から僕らの恋がスタートした。
【第三話】
多くの人は私の肩書きに魅力を感じ近寄ってくる。
しかし、彼女は違った。
「あなたの魅力?そうねぇ・・・近鉄百貨店東大阪店みたいなとこかな」
百貨店という華やいだ名前なのに化粧品売り場もない、けれど生活に必要なものは取りそろえる違和感と堅実さ。
そこに魅力を感じたと言うのだ。
彼女の「例えば」はやや、論盛~るところがあるが、肩書きだけでない私を見ていたことが嬉しかったのだ。
【第四話】
初めて逢ったのに初めてでない、どこか懐かしい空気に包まれる人。
「やっと逢えたわ」
「ありがとうございます」
交通広場の人前でいきなり手を握ってくるなんて
ずいぶん大胆なのね…
「週末の投票には是非」
どんなに遅く帰ってきても笑顔で迎え入れてくれる笑顔の彼は、
マンション前に貼ってる府議会議員候補のポスターの人だった。
【第五話】
「こんなところに呼び出して、今更なんの話?」
不機嫌な表情で向かいの席に座り煙草に火をつけた。
「何度謝っても元には戻れないし、もう私にあなたは関係ない人よ」
冷たい言葉が煙にのってふわふわ浮いていた。
「回転寿司発祥といわれる元禄寿司も万代百貨店の1号店も布施なんだ。もう一度この街からやり直したいんだ」
「ふぅん・・・」
煙とともに吐き捨てるように彼女は続けた。
「あなた、昔、布施にニチイがあったこと覚えてるわよね」
もちろん駅の東にあったことを覚えているよ、
「そのニチイがサティになって、駅前にビブレができたわ」
そうだね、
「今はサティがなくなり駅前のビブレはイオンになった」
僕は頷くしかできなかった。
「結局、布施は最後にひとつになる場所なのね」
煙越しに見える彼女は笑顔だった。
【第六話】
最後の約束は「階段降りて右の改札出たところで待っているね」だった。
何時間待ってもあなたは来なかった。
改札横のシュクレのケーキたちより甘い昼下がりを過ごすはずの休日だったのに・・・
方角が苦手な君のために
「前の車両に乗って、いちばん近い階段を降りて右の改札出たところで待っている」
僕にしては親切に説明したはずなのに君は来なかった。
僕は同じことは二度言いたくないと前に言ったよね。
改札横の花屋さんで君へ花をプレゼントするはずだった、残念だ。
布施には「二両半」という単位はあるけど「三行半」はなかったはずだよ。
【第七話】
布施から鶴橋へ行くのに、2階の大阪線からも3階の奈良線からも行ける。
しかし、私は馴染みのある奈良線を使うが、たまには大阪線から行ってみよう。
都合よく相手を両天秤にかけるモテ女の気分を味わえるようである。